ヤクシマキツネウオという和名について

【ポイント】 一湊タンク下
【水温】 20.7℃
【透明度】 ~20m
今日も朝から雨が降り、暗く寒々しい1日だった。
風は北東が強く、元浦側にはかなり厚いウネリが押し寄せていた。
一湊湾内も一見凪ぎに見えるが、浅場はかなりのウネリで透明度も最悪だった。


今日も沖の斜面まで一気に泳いだ。
また昨日と同じ-25m付近でしばらくブラブラしていたが、特に目新しい生き物は見つからなかった。
kitune.jpgこの斜面は本当に毎年のようにヤクシマキツネウオの幼~若魚ステージがよくたまる。
不思議なくらい、ここばかりに大量に。。。(-_-;)
で、春ぐらいになると、みんな大きく成長し、15cmを越えた辺りから水底を離れ、中層域へとその生活場所を変えていく。
今の時期は右の写真のように5-10cmぐらいの若魚が目立つ。
そろそろ水底を離れてもおかしくないサイズの子もチラホラ。。。
今年の8月に和名がついたこのヤクシマキツネウオは、元々、その幼魚は「プリンセスモノクロブリーム」なる素敵な英名(?)で呼ばれ、綺麗な魚としてダイバーの間では知られていた魚だけあって、予想通りかなり反響があったようだ。
そんな中には「魚の名前に地名をつけるのはどうかな。。。」といった意見も同業者を中心に多いと聞く。
屋久島でもケラマハナダイやアマミスズメダイは超普通種だし、イシガキカエルウオやオキナワベニハゼだって屋久島にはウジャウジャいる。
確かにそれはおかしな話だと僕も思うけど、今回のヤクシマキツネウオに関しては多分、各地でその幼魚は昔から見られていた、知られていたのに、ナゼ今ごろ「ヤクシマ」を冠した和名がつけられるの?って事だろうと思う。
でも、ちょっと待って欲しい。。。
今回、「ヤクシマキツネウオ」の和名がついたのは、前からよく知られている綺麗な幼魚(「プリンセスモノクロブリーム」?)に対してついたわけではないのだ。
今回、和名がついたのは、直接的には下のような写真の魚に対してなのだ。


左がメス、右がオスの婚姻色(通常はオスもメスと一緒の体色)なのだが、サイズは共に20-25cmぐらいで、屋久島では昔から「マッドイボ」と呼ばれ、漁師さんたちはこれをイカ釣りの餌として利用していた。
これが今回、漁師さんのご好意でオスとメスを頂く事ができ、精査の結果、2001年に新種として記載されていた魚(Pentapodus aureofasciatus)と一致したわけだ。
つまり、今回の論文では、かの有名な幼魚の形体は一切、精査されていない。
だって標本なんてないもん♪(笑)
で、今回和名が提唱された論文の趣旨は、「前から知られている綺麗な幼魚が屋久島でも見つかって和名がつきました♪」という類のものではなく、「Pentapodus aureofasciatusの大きな成魚個体群が屋久島にあり、繁殖も常に行っているのが確認された」という事と成魚から幼魚まで数がメチャクチャ多いからこそできる「成長過程における体色変化の考察」なのだ。
で、和名はついでにつけられたってわけだ。
そして現時点では、成魚に関して、まとまった個体群が常に見られる場所や繁殖行動が常に観察されるような場所は国内では屋久島以外からの報告はないようだ。
(幼魚はかなり広範囲で見られているというのに、不思議なことだが。。。)
ちなみに屋久島では、ヤクシマキツネウオの成魚は島周りのたいていのポイントで何百&何千という群れで見られる。
海はみんな繋がっているので、魚に関してはその地域の「固有種」を見出すのはちと厳しいのは分かっているが、他地域よりも多く見られる、もしくは比較的簡単に見られる魚(もちろん個体群)に関しては、「●●ならではの魚」という言い方はアリだと思う。
そしてそれに対して、地域名をつけるのは何ら問題ないのではなかろうか?
という事で、国内では屋久島で圧倒的に多く見られ、繁殖も盛んに観察されるヤクシマキツネウオは十二分に「屋久島ならではの魚」だと言えると思うし、今現在の分布状況&観察個体数から言って、地域名を冠する資格があると思う。
ここで幼魚を持ち出してくるからワケが分からなくなる。。。(-_-;)
生物学の世界では幼魚が1匹でも見つかれば「分布」として認められるため、幼魚が数匹見られただけで、「●●にもいるよ!」という話になってしまうのだと思う。
さすがに僕も夏季限定で屋久島では幼魚のみ見られるイロブダイやチョウチョウコショウダイを「屋久島ならでは」とは言わない。
ちなみに、この幼魚(「プリンセスモノクロブリーム」?)も屋久島では、ある決まった環境(潮通しのよい-25m前後の開けた緩い斜面)では20m四方の範囲に数十匹~数百匹単位で見られる事も付け加えておきます。。。(笑)


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15 Comments

  1. なるほど…

  2. こんにちは、山梨の上田です。
    『今回、「ヤクシマキツネウオ」の和名がついたのは、・・・直接的には下のような写真の魚に対してなのだ。』
    ってことは、別の種ということなんですか?それとも幼魚自体は同じ(?)だけど、成長過程で体色が変わって屋久島ならではの種になったもの、ということなんでしょうか?
    タダェマ((´‐公‐`))考ぇ中 むずかしい・・・。

  3. ごぶさたです(・∀・)すたです
    正月暇です。
    屋久島行きたぁい!
    でも正月は大時化しそうですね・・・
    さてさて、ヤクシマキツネウオ
    じゃあプリンセスモノクロブリーム=ヤクシマキツネウオじゃないかもしれないってことですか?w
    あくまでも考察であって標本から実証されたわけではないから、プリン=ヤクシマキツネウオとは言い切れないってことですね
    プリン=ヤクシマキツネウオといえるようにしげるさん、頑張ってください(笑

  4. まろさん、ひろさん、すたさん、コメントありがとうございます!
    何かますます混乱させちゃったようでスミマセン。。。(笑)
    ここで説明するのはちょっと大変なので、再度、LOGの方で補足しておきますね。
    ひとまず、
    > ってことは、別の種ということなんですか?
    いえいえ、100%同じ種類ですよ!
    僕が屋久島で紹介した幼魚と成魚は間違いなく同じ種類の成長ステージ違いです♪
    標本精査はしていなくても、間違いないです。(笑)
    ご安心を。。。
    > プリンセスモノクロブリーム=ヤクシマキツネウオ
    > じゃないかもしれないってことですか?w
    詳しくはLOGの方で話しますが、プリンセスモノクロブリームという魚を僕はよく知らないので、何とも言えません。
    ちなみに沖縄などで見られる子がプリンセスモノクロブリームといわれている事自体が、多分標本精査には基づいていないと思われるので、何とも言えないです。
    この英名ってどこから出てきたんだろう。。。(-_-;)
    > プリン=ヤクシマキツネウオといえるようにしげるさん、頑張ってください(笑
    いやいや、これは素人の僕には難しいです。(笑)
    多くの標本を精査&比較しなければならないそうです。
    ちなみに。。。
    これもLOGの方で話しますが、ヤクシマキツネウオは新種の可能性も秘めているようです。
    つまり、これまでまったく知られていなかった魚かもしれないという事です。
    僕的にはプリン=ヤクシマキツネウオじゃなくて、新種であった方が、さらに堂々と「屋久島ならでは」と言えるので、こっちの方が嬉しいかも。。。

  5. あれ?コメント入れたのに入ってないや。。。
    命名の事情はよく判りました。事情がわかれば納得しますね。
    こちらでは幼魚(プリンセス)も季節になるとチラホラ見られます。成魚は自分の知る限りは1箇所のみに20匹適度生息を確認している。
    でも、しげるくんとこので幼→成魚がつながってヤクシマキツネと判明しました。
    が、プリンセスではない方がもっと面白いよね。

  6. オケモリさん、どうもです。
    > 成魚は自分の知る限りは1箇所のみに20匹適度生息を確認している。
    それは知らなかったです!
    今日のLOGにでも書こうと思っていたのですが、「Pentapodus aureofasciatus」の副模式標本のひとつは沖縄で採取されたもので、石垣島などでも多少見られるらしいのは聞いていましたが、20匹程度とは言えども群れで見られるというのは初耳です。
    それなら十分「個体群」と言えそうですね。。。
    ちなみにそれは常時そこで見られるのでしょうか?
    また、その婚姻色は、屋久島の個体とおなじように尾鰭の上葉のみ赤くなるものでしょうか?
    それとも全体的に赤くなる、もしくは上葉のみ黒くなるという事はありませんか?

  7. 写真を撮りに中々行けなくて(タイミングが悪い)自分では写真持ってないのよぉ。
    ヒナガヤッコやヤイトヤッコが居るのでよく行くのですがヤクシマは30mなんでいつもちらっとしか見てなくて・・・婚姻色に出会ったことがないのです。あっ、気づいてからは常時います。
    上の写真を見てきれいなんで是非撮りたいと改めて思った次第です。
    撮れたらまた報告しましょうね。
    ありがとう。

  8. すいません頭が良くないのでイマイチ理解できないんですけど
    >今年の8月に和名がついた・・・かなり反響があったようだ。
    ってことはほぼ同じ種ってことですよね?
    そうでなくて、似ているがまったくの新種の可能性もあるってことですか?

  9. > オケモリさん
    よろしくお願いします!
    今回、とりあえず屋久島の個体群(ヤクシマキツネウオ)はPentapodus aureofasciatusと同定されましたが、実は論文のメインの著者である本村氏は、いくつか合点のいかない違いがあることからPentapodus aureofasciatusではない可能性の方が高いと見ているそうです。
    例えば、ヤクシマキツネウオは目玉の前方が吻の中ほどまで達するのに対し、Pentapodus aureofasciatusの目玉は吻にはまったく交わらないくらい離れているそうです。
    またオスの婚姻色もヤクシマキツネウオが尾鰭の上側だけが赤くなるのに対し、Pentapodus aureofasciatusは黒くなるそうです。
    また、全体が真っ赤になる個体もいたりして、この手の種類はいくつかの種類に分かれるのでは?と見ています。
    しかし、これを実証するためには他地域のPentapodus aureofasciatusだとされる子たちを多数比較検討しなければならないらしく、屋久島のような一地域の個体だけの精査では何とも言えないそうです。
    元々、Pentapodus aureofasciatusの副模式標本は沖縄で取られたものも含まれているので、沖縄の個体がどんな婚姻色を示すか分かれば、かなり面白いことが分かりそうです。
    婚姻色写真、楽しみにしております!!
    > ひろさん
    > すいません頭が良くないのでイマイチ理解できないんですけど
    いやいや、僕の説明が悪いだけです。。。すみません。。。(-_-;)
    ひとまず、屋久島で見られる幼魚と成魚は「ほぼ。。。」ではなくて、100%同じ種類ですよ。
    なぜそれが言えるかというと、僕が3年かけて毎日のように成長ステージを追っていたので間違いないです。(笑)
    生物の分類や生態の世界は、必ずしも、図鑑や過去の論文に書いてあることが正解ではないという事は知っておくと良いかと思います。
    フィッシュウォッチングをする上で、信頼できるのは自分の目で見て感じた事実だけです。
    だから、フィッシュウォッチングは止められないのです♪面白過ぎて。。。
    それと、屋久島で見られる種類と沖縄で見られる種類が同じ種類かどうかという事は、学術的には両地域の標本を30個体づつ比較する必要があるようなので、僕ら素人にはとても難しい。
    なので、現時点では屋久島の子も沖縄の子も共に同じ「Pentapodus aureofasciatus」という種類になります。(繰り返しますが、”学術的には”)
    こうしてある論文で述べられたことは、「現時点での最新知見」となります。
    これは立証さえできれば、簡単に覆るものです。
    。。。とここまでは学者さんの世界の話であって、僕らダイバー(フィッシュウォッチャー)にはあまり関係の無いことだと思います。
    しかし、僕らダイバーはスクーバを使って「フィールド観察」ができるという素晴しい立場にあるので、こうした知見を覆し、新知見を見出せる可能性があります。
    僕もぜひ沖縄の個体と屋久島の個体が別種である事を「フィールド観察」だけで立証してみたいのですが、何せ僕は屋久島専門のガイドです。。。(笑)
    ここから先はちと厳しい。。。(比較のために沖縄に行かなきゃならない。。。(-_-;))
    これができるのは、ひろさんのような各地で潜ることのできるファンダイバーだと思います。
    ぜひ、自分の目で調べに行ってみてください。
    キーポイントは「婚姻色」だと思います♪

  10. あっ!ひろさん!
    沖縄のヤクシマキツネウオを見てみようと思うのでしたら、上記コメントを頂いているオケモリさんのお店にぜひ行ってみてください♪(笑)

    阿嘉島・オケアノス

  11. なんか、すごく楽しいですね!!
    沖縄!行きたいです!
    次に行きたいのは八丈or沖縄なんです

  12. 八丈島なら僕の古巣であるあのお店へ。。。!(笑)
    っていうか、屋久島にも再度遊びに来てくださいね~!!
    ヤクシマキツネウオの全成長過程を追ってご紹介します。。。

  13. 屋久島も八丈島も行きたい!
    でも今年(2月に)は娘が生まれるんで海自体行く事が・・・(┬_┬)
    サカナの種類がなかなか憶えられないんですけど、何かコツありますか?ほぼ毎日、山渓カラーの図鑑とかで見てるんですけどねぇ。
    あ、しげるさん以前にも相談にのってもらいましたけど、SPROのBCでCLASSICが良いと聞きましたけど、種類がいくつかありますよね?タダェマ((´‐公‐`))考ぇ中

  14. サカナを図鑑で覚えようとすると、どうしても「名前」を覚える作業になってしまいます。
    でも、個人的な趣味でフィッシュウォッチングを楽しむ方でしたら、ぶちゃけ「名前」はどうでもいいというのが僕の考えです。
    「名前」はあとから人間が勝手につけたものです。
    大事なのはこの種類とこの種類は別の種類だと認識できる事だと思います。
    これを”識別”といいますが、これはさすがに図鑑では厳しくて、実際にフィールドに出て、その生態や動きを観察することで少しづつ分かってきます。
    水中でこれができていれば呼び方はテキトーに自分が覚えやすいニックネームで呼んでれば良いと思います。
    実際、僕もそんな連中(ニックネームで呼んでいる生き物)が多いですよ。(笑)
    でも、僕のようなガイドを仕事としている者は「名前」を覚えないと紹介できないので、仕方なく覚えています。。。(-_-;)
    ひろさんもフィッシュウォッチングの仲間ができてくると、そうも言ってられず、みんなで共通の呼び方があると便利だなぁ~と感じると思います。
    それが「名前=和名」だぐらいに考え、まずは気楽に海の生き物をウォッチングしてみてください。
    そんな中から面白い行動や動きをしている生き物を、ナゼ?どうして?と興味を持って追ってみてください。
    きっと面白いことが分かりますよ!
    名前当てや名前を覚えたりする事はいつでもできるので、今はフィッシュウォッチングを純粋に楽しんで頂きたいです♪(^○^)
    興味あるものに関しては、名前は自然に覚えていくと思います。
    > SPROのBCでCLASSICが良いと聞きましたけど、
    > 種類がいくつかありますよね?
    一番安くて、シンプルなやつでOKです。
    Motionってやつで良いと思います。

  15. そうですそうです!
    識別です、識別が出来ないんです(T T)
    >面白い行動や動きをしている生き物を、ナゼ?どうして?と興味を持って追ってみてください。
    海外などで珍しいサカナを見るダイビングには確かに憧れますけど、基本的に僕はサカナの生態をもっともっと知りたいんです。サカナそのものを見てると面白いですもん。なんでだろ~?
    じっくりまったり観察できるダイビングがいいですね


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